夏はきぬ
 おれ、「夏はきぬ」の歌が、好きで好きでたまらない。
 この歌の「におうかきねに」 のところと「はやもきなきて」のところの音程が上にいったり下にいったりするところがいい。うたうたびにじぶんの頭も上を向いたり下を向いたりする。こうやってほどよく頭をゆらしてくらくらっと酔ったような気持ちになって、夏を迎える歌だと思う。このトリップ感最高。
 去年の夏、ともだちに誘われて小金井公園は江戸たてもの園の夕涼みイベントに行ったとき、かざぐるま片手に楽しそうに歩いている浴衣姿の女の子たちをみたり、ひさしぶりに盆踊りのひとの輪に加わってみたり、明治の文豪が文学を語りあったという鍵屋で一杯やったりなんかしてみたときに、なんだかこの歌がうたいたくなった。
 でもいきなりおれが歌をうたいだしても、たぶんみんな困ってしまうだろうからやめておいた。季節もひと月くらい違うようだし、歌詞もぜんぶおぼえていなかったから、万が一うたい始めたとしても、途中でつっかえつっかえ、じぶんもバツの悪い思いをしただけだったろう。やめておいてよかった。
 それで、帰ってきて、インターネットで歌詞を調べた。やっぱりこれ、すごい歌だ。よくわからないけどすごい。ますますくらくらした。
 この季節、満開の桜をみながらこんなこと考えるのはなんだかどうもナンだけど、やっぱり夏がくるまでにおぼえようと思う。だれも聴いてないところで、自転車をこぎながらうたおうと思う。
 もしかしたら、おれのほかにもおぼえたいというひとがいるかもしれないから、ここにもペーストしておこうと思う。

夏 は き ぬ
作詞者 佐佐木信綱
作曲者 小山作之助

卯の花のにおうかきねに
時鳥早もき鳴きて
しのび音もらす夏はきぬ  

五月雨のそそぐ山田に
早乙女が裳裾ぬらして
玉苗植うる 夏はきぬ  

橘のかおる軒ばの
窓ちかくほたるとびかい
おこたり諌むる 夏はきぬ  

楝散る川辺の宿の
門遠く水鶏声して
夕日涼しき 夏はきぬ  

五月やみほたるとびかい
水鶏鳴き卯の花さきて
早苗植えわたす 夏はきぬ

この記事のURL